|イベント|【「ローカル」×「デザイン」×「◯◯」∞のシナジー クリエイティブプロジェクトの作り方と進め方 開催レポート】

いま、日本各地のまちづくり・地域おこしで、デザイナーやプロデューサーが活躍し、注目を集めています。彼らはどのようにプロジェクトを作り進めているのでしょうか。

地域発のデザインプロジェクトの可能性を紐解くトークイベント【「ローカル」×「デザイン」×「◯◯」∞のシナジー クリエイティブプロジェクトの作り方と進め方】が、12月12日にインタークロス・クリエイティブ・センターで開催されました。今回はその開催レポートをお届けします。


トークイベント概要・イントロダクション


ゲストは北海道・札幌を拠点にさまざまなプロジェクトプロデュース、地域・商品ブランディングを行っている株式会社インプロバイドのクリエイティブディレクター、小林元(こばやしはじめ)さん。実は私は、以前こちらの会社に努めていたことがあり今回ご縁があって企画・運営の協力をさせていただきました。

イベントの主催はインタークロス・クリエイティブ・センター。進行役はNo Maps 木村 綾さんです。

今回イベントの目的の説明、そして「デザインの変遷について」というイントロダクション。

インタークロス・クリエイティブ・センターは、札幌のクリエイティブ産業振興を目的とした施設で、新しいビジネスの種を生み出す最初の場づくりを目的にトークイベントが開催されました。そのため、お話を聞いてみて「何かやってみたい」と思った方には、ネクストステップが準備されています。(2019年1月17日に、プロジェクト・メイキングの体験ワークショップを行うそうです)

そして「デザインの変遷について」では、”デザイン”という言葉が表す意味が変わってきたことや、新しくできた市民交流プラザの図書館も一番目のつくところに「デザイン」関連の書籍があったりと、デザインへの社会や産業の期待が高まっていることの表れについてのお話や、成果を出しているデザインに共通することや具体的な事例の紹介があり、それぞれの地域に地域をプロデュースしている企業があるというお話から、本日のゲストのご紹介につながります。そして、小林元さんのお話を伺います。


インプロバイドの前身、初期メンバー


株式会社インプロバイドは、今年で11年目の会社。小林さんが24歳の時にWEBデザインができる川畑さん(現在はOTO TO TABIというフェスをやっています)、現在は札幌オオドオリ大学の学長の猪熊さんと3人で起業しました。「グラフィックデザインができる人が居たらいいよね」という話から、4ヶ月目で4人目のメンバーとして現在もインプロバイドにいらっしゃる川尻さんが加わります。

小林さんは現在まで会社に所属したことはないそうです。大学卒業間際になり友人たちが東京へ就職するなか「自分は札幌で暮らしたい」と思い、始めたのが「モスリンケージ」というWEBサイトです。

つくるきっかけはデザインやアート、音楽などが好きだけれど、それを知ることができるWEBサイトがなかったこと。札幌にも面白いクリエイターがいることをコラボレーションなどもしながら情報発信していきました。WEBサイト自体は現在も知っている方が多く有名にはなったのですが、マネタイズができず仕事にはならない、食べていくためには難しい。「そんなこと、本当は作る前に気づいて、って話なんですけど、気づかなかったくらい若かった」。



「面白いことをしたい若者のあつまり」から「会社」になるまで


そんななか、2008年ごろに友人の紹介から、アウトドアメーカー・コロンビアのお仕事に携わることとなります。

そこからさまざまなお仕事につながっていきます。ダウンジャケットをさまざまな業界で活躍している方のライフストーリーとともに伝える企画では、日本全国15ヶ所くらいを回って取材するなど貴重な経験をしました。自分たちが「楽しい」と思い取り組んだ企画をクライアントも楽しんでくれたことから、自分たちの感覚を信じる原点ともなる仕事が数多くあったのですが、売上の半分以上が東京からの仕事でした。

「なんで東京でやらないんだっけ?」という話になり、原点に戻り「札幌で面白いことがしたいと思ったんだから、札幌の仕事をしていきたい」と思っていたころ、コピーライターの池端さん(現在はインプロバイドでクリエイティブディレクター、コピーライターをしています)と、ポテトファームのじゃがポックルの仕事をスタートします


事業ドメイン・テーマ


2012年には社員も6人になり、決めたことが2つあります。ひとつ目は「自分たちができることをはっきりさせる」ということ。何が特徴なのか、何ができるのかを明確にしました。二つ目は「食と観光」「地域とまちづくり」「教育」を軸に仕事をするということ。特に「教育」はこのまちの未来を担う次世代のため。非常勤講師をやったりもしているけれど先生ではなく、学校を作ったりはできないけれど、魅力的な学校がたくさんあるといいよね、という発想から高校や大学のブランディングも手がけるようになりました。

そういったテーマを設定し、仕事が新たな仕事につながっていくという時期が続き、現在は直接取引100%。営業は0%。そうして手がけた仕事の数々をイベントでは紹介しました。(WEBサイトにも掲載しているのでぜひこちらも見てみてくださいね)。



現在のクライアント・プロジェクト

クライアントとの関係性で印象的だったのは「PASS THE POTATO BATON」のお話です。

「PASS THE POTATO BATON」は、畑からお客様がポテトチップスになって食べるまで、をコンセプトに紹介しています。この仕事は営業ツールだったのですが、パワーポイントで作ったような資料では、伝わるものも伝わらないのではないか。そう思っていることをクライアントに提案しカタチにした思い入れのあるプロジェクトです。驚いたのは、ナレーションのコピーに一文字も直しがなかったこと。「同じような価値観を持って仕事ができるっていいなあ」と思いながら仕事をしているのだそう。

最近では新たな自社の取り組みとして「Face」という、札幌のブランディングやディレクションが得意なデザイナーを紹介するWEBサイトを制作しました。一見ライバルとも言える方々を紹介するサイトを、なぜインプロバイドが作るのか。そう思いましたが、会社も現在11人で受けられる仕事の量にも限界があります。一方で素敵なデザイナーの方々がたくさんいる。それであれば紹介することで札幌で活躍している人が増えていくと、札幌がより面白くなっていくのではないか。そう思い制作することを決めたそうです。



参加者から小林さん・インプロバイドへの質問

後半は「Q&A」形式で参加したみなさんから質問を受け付け、お答えしていく形で進んでいきました。一部ご紹介します。


Q.どのお仕事も「想い」が起点になっていると思ったのですが、起業してから現在に至るまで「想い」に変化はありましたか?

A. 就職して働くというイメージがあんまりなくて、札幌が好きで札幌で暮らしたかったし、札幌で仕事がしたかった。札幌に対する想いはそこから発展はしていなくて、「地域」に対する想いという視点で見ると、新しい人に出会ったり考え方も変わっていく中でアップデートはされているな、とは思います。僕たちは根本的には”産業”にしか関わりを持っていなくて、なぜかというと、そのまちの産業が伸びていかないと地域が良くなっていかないと思っているからです。なので、産業に対して何かできないか、とは日々考えています。出会う人々、影響を受ける人、その時々で変わるけれど、10年間根本的な「想い」は変わっていないですね。変わっていなくてごめんなさい。笑

Q. 魅力的な仕事をされていますが、どうやってキャッチしているのでしょうか?

A. それまでのつながりの中で重ねてきたことが仕事になっていったり、小さな積み重ねが大きくなっていく。単純にそういうことなんだろうな、と思います。僕は、若いときにたくさん先輩方に助けられて来たので、良い環境でたくさん遊ぶことも大事だなって思います。

Q.「デザインは課題解決の手段」と言われますが、そういった意識を持ってデザインされたことはありますか?

A. 「課題を解決しよう」と思ってデザインすることはないですね。売上を上げたかったり、新しく商品を作ったので売りたいというお話にも、もちろん提案しますが、課題を解決しようと思ってデザインすると楽しくなくなってしまうことがあるかなと思います。課「面白いことをやろうよ」と考えることから取り組むとポジティブな意見も出やすい。もちろん、最終的には色々解決されている。そんな状況がベスト。たまに「格好良いものをつくってほしい」と言われることもありますが、格好良いから課題が解決されているわけではないということも、解ってもらえたらいいなと思っています。


Q.コンサルティングのようでありながら「課題解決」という言葉を使っていないですよね。お客さんとも同じチームとして楽しく仕事を進める中で、自分が楽しいこととお客さんが楽しいこと、そのバランスがいつも難しいのですが、すり合わせはどのようにしていますか?

A. どうやってすり合わせているか…と言われると、関係性のお話にもなると思うのですが、自然にやっているのかなと思います。少し恥ずかしい言葉を使うと”志”が似ているのかもしれないですね。すり合わせるというのは難しいので、価値観が似ていたり、近い方々と一緒に仕事ができたらと思っています。



Q&Aではさまざまな質問が出ていましたが、最後に木村さんより「今後も”選ばれる北海道の会社”であるために、どんなことを大切にしていますか?」と質問がありました。


「たぶん僕たちはデザイン業界ではアウトサイダーだと思います。デザイン会社がやらないようなことをやろう、というのは一つ思っていることですね。これくらいのデザイン機能がある会社の中で珍しいのは、新しく入った人たちは残業が禁止されているということ。デザイン会社なのに他のデザイナーを紹介しているお人好しの会社はないと思います(笑)「こんな面白い会社が札幌にあるんだな」というのを追い求めているのかもしれない。それが結果的に"仕事"に繋がっているのかもしれないですね」



おわりに


今回のトークイベントで、どうやってクリエイティブプロジェクトを作り進めていくのかというお話に入る前に、デザインやローカルに対する考え方を知り、自分自身がどう向き合うのかを考える大事な要素かもしれません。


私自身も札幌生まれ、札幌育ちで「札幌で面白いことがしたい」と思っていて、就職活動中に偶然見つけたのがインプロバイドでした。「IMPROVIDE」とは「improve」と「provide」の造語。"改善して、より良くして、提供する"といった意味が込められているそうです。現在もその想いは変わらず「こんな面白い会社が札幌にあるんだな」というのを追い求めているというお話に強く共感しました。


今回は平日ということもあり、仕事が終わって参加していた社会人の方々が多かったのかなと思います。トークイベントは不定期開催とのことですが、ぜひNo Mapsインタークロス・クリエイティブ・センターのWEBサイトをチェックしてみてください。